(2001年8月)

薬剤師の認定制度の整備に向けて(5)
 

(財)日本薬剤師研修センター
     理事長 内 山 充

 

②認定―経歴による仲間内の認証(Peer Recognition of Excellence)

前回までにわが国ならびにアメリカで現在行なわれている認定制度の3つの分類、すなわち、自らの計画による自発的な生涯学習の積み重ねを証する認定制度、特定の課程(プログラム)の修了を証する認定制度、一定の専門分野の知識技能を学習と試験合格によって証する認定制度について説明した。それぞれ付図の ④,①,② である。

これらのほかに、研修の積み重ね資格でもなし、課程の修了資格でもなし、試験の合格資格でもない認定がある。これが③のPeer Recognition of Excellenceである。

学会あるいは専門職団体が、所属会員の中で経歴や実績が一定の基準に達した人を顕彰する意味での認定である。

アメリカの例でいえば、ASHP(米国医療薬剤師会)、APhA(米国薬剤師会)、ACCP(米国臨床薬学会)といった薬学系の職域団体あるいは、AAAS(American Association of the Advancement of Science)、APS (Academy of Pharmaceutical Sciences)、AAPS (American Association of Pharmaceutical Scientists)などの学会が、専門職能に優れた所属メンバーに与える ”Fellow” という称号がこれに当たる。

たとえばASHPのFellowは、吊前の後にFASHPという称号を書くことを許されている。アメリカの薬剤師、研究者、大学教授等の履歴書の “Honors” の項には、必ずといって良いほどいくつかの団体のFellow が記載されているのが見られる。

わが国でも、学会認定の中にはこの種のものが多い。薬剤師に関しては、日本医療薬学会あるいは日本臨床薬理学会の認定薬剤師は、現状ではこの方式に分類される。なお、今年から日本臨床薬理学会の認定には試験が導入された。

専門職能への寄与が公に認知されるようにという目的で授与される称号であり、主として職務上の業績と経験が評価の対象となる。教育・研究者であれば学会発表や論文数が、臨床実務者であれば職務実績の範囲と年限や指導歴などである。主催団体が特別に催す会合への参加などが条件となっている場合もある。

他の3つの分類に属する認定が、特定の課題や目標を自ら設定して、積極的に機会と時間を作ってチャレンジする性質を持っているのに比べて、これは本来の専門職能の中での優れた実績に対して与えられるものであり、わが国の古くからの慣行にはなじみやすい制度だが、他とはやや趣を異にする。本来は団体や学会の選考委員会が、基準に照らして選んで授与するのが普通であるが、個人の自薦による応募のケースもある。限られた専門分野での寄与を世の多くの人たちに知ってもらうためには重要な役目を果たしている制度といえよう。

これまでの経過と今後の展望

 日本薬剤師研修センターが平成6年に「研修認定薬剤師制度」を発足させて以来すでに6年を経過し、その間、当初の認定薬剤師制度と並んで、薬剤師実務研修、CRC養成研修、漢方薬・生薬研修(日本生薬学会と共同)と、それぞれ異なる目的と条件を有する認定制度を次々とスタートさせた。これらが、薬剤師の認定制度の分類において何処に属するかは、これまでの筆者の連載(バックナンバーは当センターのホームページにある)のなかで触れている。

ところで、上記研修認定薬剤師制度の発足当初より、この制度にカリキュラムを作るべきであるとか、試験もなしでは質的保証ができないとかのご意見を頂いた。

しかし、薬剤師の研修は教育ではない。あくまでも主体は受講者にある。カリキュラムに類するものは、長期の付加研修あるいは特定領域での専門研修には必要だが、自発的自己学習で、いわば薬剤師免許の更新の代用とも考えられる認定薬剤師制度は、あくまでも個人の意志で生涯を通じて継続すべきものという観点から、当センターでは、一般の認定薬剤師制度の中ではカリキュラムを作っていない。その代わりに、自らの知識のレベルを自己診断し、生涯研修の必要度を測り、必要な研修計画を立てるための「指標項目《を平成8年に作成し、その後改訂をしつつ現在も常時提供している。

一方、カリキュラムや試験は、特殊な目的と性格を有する認定制度には必須である。当センターの行なっている薬剤師実務研修、CRC養成研修、漢方薬・生薬研修には、カリキュラム、プログラム、テキスト、試験、試問等が付帯している。

この種の専門薬剤師養成の認定制度は、将来さらに拡充する予定ではあるが、これらを当センターだけで行なうには限界がある。薬学系の専門学会、職域団体は、今後この種の認定研修制度を積極的に企画し実施して欲しい。その際には、しっかりとした計画とスタッフと評価組織が必要であるが、当センターは具体化について必要な協力は惜しまない積りである。

おわりに

これまでに数回にわたり薬剤師の認定制度を、実施目的と認定条件に基づいて分類し、アメリカと対比しつつわが国の現状と将来展望を説明してきた。

言うまでもなく薬剤師には、薬剤師としての知識、技能を常に維持し高めるために、生涯研修など自己研鑚の努力を続ける義務がある。これは日本もアメリカも変わりはない。先日送られてきたテネシー大学の生涯教育の案内プログラムにも ”He who graduated yesterday and stops learning today, will be uneducated tomorrow” 「昨日卒業して今日学ぶことを止めれば、明日は無学となる《という標語が書き添えてあった。

 わが国の薬剤師の生涯研修は、今や他の医療職に比べ決して遜色がないほど活発となった。しかしその結果、薬剤師相互間に格差が目立つようになってきたことも否めない。優れた薬剤師の能力や実績を認知し証明するために、しかるべき認定や称号が用いられているが、これは今後、患者が薬剤師を選ぶ有力な指標となることであろう。

長年にわたり我々の生活に染み込んでいる長幼の序と終身雇用、あるいは「能ある鷹は爪を隠す《を美徳とする習慣から、証書や称号をひけらかすことを必ずしも潔しとしない空気も無いではない。しかし新世紀に入り、かねがね唱えられて来た変革がすべての分野に実際に起こりつつある今日では、薬剤師も自分の持つ特技と習得した知識を足場に、新しい社会構造の中で飛躍するために、職務の上でもあるいは他の社会活動においても、履歴書に書ける証書や称号をなるべく多く獲得し、それに伴う実力をもって、流動化する競争社会において存在意義を示さなければならない。